ぽんぽんとやられた後に、「渡さなかったら泣いちゃうゾ」と言われてしまう。
きっとまた真顔なんだろうなぁと、帽子を上げて、隠れていた視界を元通りにすれば。
「……、え?」
誰も、いなかった。
夕方になりつつある薄い橙色の景色の中、前を向いても、後ろを向いても誰もいない。
狐につつまれた気分、白昼夢後、そんな“いたはずなのに影も形もなくなったこと”への思いにふけていれば、手のひらに例の水虫キラーを握っていたので狐に化かされたわけではないと知る。
無論、夢でもない。
衝撃的な人だからこその現実味があったし、頭に置かれたさざめきさん手の名残がまだある。
優しかった――
変な人と思えど、本当に優しい人なんだと思う。
置かれたあの手に、その時の口調が、五十鈴さんによく似ていたから。


