それほど広くもない庭に土蔵があったのだ。


瓦屋根が重圧感を醸し出し、雨風にあたり変色した土壁が威圧感を出すそんな土蔵だった。


駐車場スペースを確保したいから壊そうと父がよく祖父を説得していたのだが、「それだけはいけない」と頑なに土蔵を壊すことに反対していたのを覚えている。


何でも、昔の名残だとか。


神主として没落してもなお、「あの土蔵を壊してはならない」と言い伝えが先祖代々継がれてきたそうだ。


その土蔵自体が大切なのか、もしくは土蔵の中に何か大切なものがあるのか、小さな僕は「きっと、たからものがあるんだ」と目を輝かせていたこともあったが、それは間違い。


大切だからと守っていたわけじゃない。

手放せないからあっただけで――それは百々家の“厄介モノ”でしかなかった。