「五十鈴さん……」
「ん、なにか言った?」
「いえ……、あ、過ぎました」
よ、と言う辺りでおじさんが「ええっ」と驚いたようにブレーキを踏んだ。
反動で少し体が前に出る。シートベルトをしていたのでお腹部分が軽くしまった。
「ああ、ごめん。気づかなかったよ。今、バックを……」
「いえ、そんなに通り過ぎてないんで、ここで大丈夫です」
言いながら、シートベルトを外して、僕はドアを開けた。
「そう?じゃあ気をつけるんだよ。ああ、あと、これ。私の番号あるから何かあったら連絡なさい」
差し出された名刺は暗くてよく見えなかったが、持田という文字と電話番号だけは何とか視認できた。
「はい、ありがとうございました……」
送ってくれたことに僕は頭を下げてお礼をすれば、おじさんは持ち前の笑顔で「いえいえ」と答えた。


