どれぐらいそうしていただろうか、どれぐらいそうしていられただろうか。放心していた僕の前に、柔らかく微笑むおじさんがいたのでさえ気づくのに間があった。
「渉くんだね」
「……」
「喜美子さんについては残念だった。きっと“選ばれなかった”んだろうね。“私たちは選ばれなければ生きていけないから”、きっとそうだ。でもね、それでも頭冠様は喜美子さんを見捨てたりはしないから」
頭冠様、という単語で僕は初めておじさんの存在に気づく。
ふやかしたように笑う唇と瞼が重そうなおかめの目元。
「喜美子さんについては私たち――頭冠様に任せなさい。喜美子さんに親戚はいないからね、恐らくは成年後見人として私が――とは言っても、君には分からないか。とりあえず、安心していいよ。君の悪いようにはしないから」


