『何かあったら』と言われてきて、ついぞ、“何もなかったからこそ使えなかった番号”でも、僕の頭には根付いている。
五十鈴さんが番号を書いてくれたあのノートはもうないけど、記憶の中の番号はあの五十鈴さんの綺麗な字で再編されていた。
もう何年も経っているから番号が変わっているかもしれない、だなんて番号押したあとに思ったが、トゥルルと相手先に繋がったことを受話器から聞いて払拭する。
五十鈴さん、五十鈴さん、五十鈴さん――!
恐怖で荒くなった呼吸に合わせて、彼女の名前を連呼する。心で叫んだつもりだけど、もしかしたら口に出していたかもしれない。
六回目のコール、そこで“プツッ”と――
「五十鈴さ……っ」
「あぁあ゛あぁぁっ!」
僕の声に重なった居間からの声で受話器を落とした。


