口の中のむずがゆさを感じつつ、箱を開ければ、中には一冊の手帳とペンが入っていた。
「奥さまもふりぃなぁ。進級祝いに手帳って、今時ねえから」
箱の中に納められた手帳を見た藤馬さんが言う。
馬鹿にしているような口振りでも、僕にとっては光沢ある黒革の手帳と、黒と銀縁のペンがやけに眩しいものに見えた。
「手帳なんて今は学生手帳ってのがあんの。中学生全員支給だぜ?あー、わたるんにゃ要らねえよな。どら、俺が代わりに――」
貰ってやると手を伸ばしてきた藤馬さんを回避する。
僕の反抗に「あ゛?」と気にくわなさ満点な声をあげた藤馬さんだが、五十鈴さんに渇を入れられて引き下がった。


