「僕たちは渉を手離しません、絶対だ」
「そう言うのも今のうちだけだ。渉を手離さなかったツケは、すぐに来るだろう」
「まだ変なこと言って……!第一、手離すだなんて、犬猫捨てるのとは違うのよ!渉を籍から抜いたあとのことはどうするの!」
「……、喜美子(きみこ)の養子にする」
突然でてきた名前に明子は言葉を失い、貞夫は聞き覚えがない名だと、その名を疑問符をつけて反芻(はんすう)した。
「誰ですか、その、喜美子って」
「……」
聞いても義父は口を閉じた。意地悪して教えないというよりは、またその名を口にすること自体が禁句のように口を一文字に結ぶ。


