(二―二)
「どういうこと、お父さん」
百々明子(どうどあきこ)は泣きすすりながら自身の父に言った。
先ほど、一週間の昏睡状態だった息子が目覚めて泣いたというのに、まだ自身の涙は枯れないらしい。
ただ先ほどと違い、今は歓喜の涙よりも、唖然としたすすり泣きだが。
「渉(わたる)を籍から抜くって……」
何かの冗談を聞いているのかと明子は笑いもしたが、しわがれた父の首は横に振られた。
「もう、あいつは駄目だ……」
項垂れるように、涙を必死に堪えるが、目を真っ赤にして、枯れた喉からしゃくりをあげた。
「な、なにがだ!なにが駄目なんですかっ、お義父さん!」
旦那として明子に寄り添う貞夫(さだお)がたまらず叫ぶも、ここは病院内だと声をあわてて潜めた。


