思い出した、けど思い出したものは別の人の記憶。
数分だけ他人の脳に入り込んだような、僕の思考とは関係ない、まるっきりの他人事なのに。
その記憶の僕は、暗闇の中、咀嚼していた。
あの歌を口ずさみ、ぼりぼりと咀嚼し、飲み込んだ。
暗いから視覚は働かない、だから食べているのは僕と認識できないのに、食感が口の中でごろごろしている。
違う、間違いだと言いたい、他人事だと逃避したいのに、記憶が頭で焼き回される。
その度に吐いた。
自分じゃないと否定しながら吐いた、消えないから吐き続けた。
ベッドに広がる中身がない吐瀉物。どこにもあの、干からびたしわくちゃの茶色はなかった。


