「忘れないでくださいね、お父さん。“頼まれているのはこちらであって、頼みを聞いてやるのもこちらだ”、と」


優位はこちらにあると、喜美子の堂々とした面持ちは変わらず、敵将の首を取ったと言わんばかりに、唇が歪んでいた。


怒っていてはお話にならないでしょうからと、喜美子はあえてこのあとすぐに帰ったわけだが。


一週間ほど考えた末に、結局のところ、喜美子に頼る他なかった。


打開策として、義父が貞夫に養育費を払い、貞夫が育児に専念ないし、支障ないほどに仕事を緩くするかとの案も出たが、貞夫が首を振った。


今の不況に仕事を辞めたとなれば、渉の将来に関わるとその時は言ってみせたが――喜美子に自身の『幸せ』とやらを口にされてから、貞夫が考えたのは渉との将来ではなくて、自身の将来だった。