「ったく、静かに飲むのがいいっつーのに。ぴーちくぱーちく囀ずりやがって」
いい夜なのに台無しだ、と藤馬さんがお猪口をこちらに差し出してきた。
その行為の意図が分からないわけではない。最後の一杯が残る徳利を僕は傾けた。
「下らねえ話に花咲かせんな。乾杯なんざ、いちいち意味つけなくても乾杯(めでたい)なんだよ。祝福なら歓喜して、笑いたいなら笑えと同じ。意味付けで迷うなら、めでたい分だけ言えばいいじゃねえか。こういうのはな――」
僅かに上がる盃、見本となるそれに僕も腕を上げた。
「楽しんだもん勝ちなんだよ」
含み笑いに重ねて僕の吹き出す声。そこに釣られたように、残り二人も笑ってみせた。


