僕が傷つくことは、誰かが傷つくこと。


大切な人の泣き顔なんて見たくない。


もう戻ってこないものばかりを見ては、今いる大切なものを見失うだろうから。


『不幸せに居場所を求めるな、私たちは“そっち”にはいない』


僕の居場所は、“こっち”なんだ。


「ババア、元に戻してほしいか」


だから、そんな意地悪な質問を言う人にはこう言います。


「戻ってきたとしても、僕の家族は藤馬さんですよ」


もう伯母さん側(そっち)に行くつもりはない、ずっとこっちにいますよと言えば、藤馬さんは面白くなさそうに酒を飲む。


「照れ隠しですか」


「てめえ……。最近、マジで調子乗ってんな」


「そりゃあ、藤馬さんのかっこいいところを見てしまえば」


ねえと、唇が緩んだあたりで藤馬さんが一升瓶の蓋を開けて、僕の額に投げつけてきた。