「ついこの前は、太陽の前を金星が通るっていうのもありましたよ」


天体観測ついでの話を肴にしてみた。


お猪口にお酒を注ぐのは案外難しい。並々となる液体を、藤馬さんはおととっと吸っていた。


「かーっ、んで、まあたグラサンで空見上げるやつばっかか。ニュースでああも大々的に取り上げてよぅ。ぜってー似たような観測ショーは他にもあるって」


馬鹿馬鹿しいと喉仏がごくりと上下する。藤馬さんがお酒を飲むところなんて、よくよく考えれば初めて見るかもしれない。


いつもはお茶やら青汁だったりと、ああ、僕の家にはお酒がなかったから、そんなものしか飲んでいなかったのか。


なかった、お酒なんて。あると思わなかった。


実を言えば、この場にあるのは徳利だけじゃない。陳列されたような数本ある一升瓶をちらりと見る。全ては“春夏秋冬家で見つけたもの”であり、あるのに僕が分からなかったのは。