「知るかよ。金環日食みてえな天体観測ショーなんて去年やったような感じもするしよぅ」


「この前の金環日食は173年ぶりだそうですよ」


「は?なんか去年あたり、それっぽいことなかったか?つうか、単に真っ暗になるだけじゃねえか。太陽と月は別個だからいいんだ。夜にあるからこそ生えるってもんで、月ほど綺麗なもんはねえっつーのに」


そういう彼は、月の酒を飲み干す。空になったお猪口にもう月は映ってないだろう。綺麗と言いながらも、藤馬さんは一度も月を見上げてはいなかった。


見えないということはない。今日も目元に包帯を覆っているわけだが、酒を自身で注げるあたりは大丈夫――


「ちっ」


と思った矢先に、酒を注ぐ徳利(とっくり)の淵が、お猪口から僅かにずれて傾けられた。


藤馬さんとて床に酒くれているとはすぐに分かったらしく、すぐにあるべき器に注ぎ直す。