「藤馬さん、金環日食見なかったんですか」


何でその話になったのかは、やはり月から流れてきたのだろう。


問いかけた斜め後ろにいる人――片膝を立てて、お猪口の酒をすする藤馬さんは、至極どうでも良さそうに答える。


「寝てた」


だらしない人にお似合いの台詞だった。お猪口の酒を手で軽く回して、酒に映る月がたゆたうのを見ているようだ。


家の掃除をしていたら、何だか高そうなお酒があったから、こうして藤馬さんに飲んでもらっているわけだけど、月見ながら飲みましょうよと僕の発案に最初は嫌な顔をしていた。


けれども、こうして来てしまえば、案外、満更でもないらしい。酒のほろ酔いもあってか、今の藤馬さんは話しかければ返してくれるほど機嫌はいいみたいだ。


「もったいのない」