さざめきさんが立ち上がる。今までのことが嘘のように毅然としていて、一度眼鏡をかけ直してから、僕に背中を向けた。


「しばらく、出掛けてくるから。留守は頼んだよ。誰も来ないだろうけど、ここにいてくれ」


「……」


はい、とする返事が掠れて出なかった。


さっき、眼鏡の奥が泣いていると思っていたけど――あれは、間違い。


「う、ぐぅ……」


泣いていたのは、僕だった。


「ああ、もう……っ」


情けない。
さざめきさんに気を使わせてしまった。帰ってきたらすぐに謝ろう。


だから、今は。
誰もいない一人っきりのこの場所で。


「う、あ……」


この悔しさと悲しみを吐きだそう。