「あなたが手放した息子は、今とても幸せで、色んな人から大切にされています。――って、手放したものの“価値”を教えたかった。もう二度と戻らないものの大切さを知ってほしかったのに……」
『それが、どうしたんだ』
それなりに話したはずなのに、どうしてこれしか思い出せないんだか……
「呪いがあろうとなかろうと、あの人にとっての僕は――」
“終わったこと、なんだ”――
過去にあった出来事の一つであり、現在にも未来にも影すら残さない手放したもの。
“気にも止めていなかったんだ”、僕(こちら)ばかりが片思いをしていて、あちらは関心すらも持たない。棚後ろの埃だ、意識にも置かずに、いざ見つけたとなれば嫌な気分になり、そうしてまた掃除(なかったことに)する。


