「さざめきさんも、取り乱すときがあるんですね」
「そういう渉くんは、大人のコーヒーで舌をひりつかせていそうだけどね」
返されたことにバレたかと軽く舌でも出したい気になった。
さざめきさんがいてくれたことで確かに幾分か楽になったけど、ああ、胸元に手を当てずとも心音の酷さが分かる。
「苦いのを飲めば、気付け薬代わりになるかと思いましたが、止めた方がいいですね。ぜんぜん、効きませんから」
「無理もない。12年ぶりとなれば緊張するだろうし――正直、激情することの方が正解なんだけどね」
しそうになった人は、ピアスに触れて、耳朶をいじる。
「義歯が必要になるぐらい殴っても、正当防衛だろう、あれは」
「正当防衛って……何もされてませんよ」


