妻と娘がいるから、仕方がなかった。家族を大切にしたい、“今の家族を幸せにしたかっただけなのに”。 「うぅ……」 『昔の子は、他人の子か』 突拍子もないことでも、意味は自分で考えろとあえて短くされた言葉。 ――ああ、だから。 「ごめん、なぁ……」 そんなことすらも気づけず、気づくまでに至ることを――“あの子だってそうなのに”と、貞夫は泣きむせぶ。 もう取り返しはつかないんだと、渉の最後の言葉がまた頭で繰り返された。