「昔の子は、他人の子か」
言って、突き放される。
壁に打った背中、去る付添人の代わりに慌てふためくような店員が「大丈夫ですか」と聞いてきた。
背中から伝わる痛みと、机に打ち付けてしまった肘。髪から垂れる液体、べっとりと服に染み付くコーヒーの匂い。それら全てが不快であり、身に纏うものなら何かしらの行動をしようにも。
「お客様?」
貞夫は突き飛ばされた姿勢のまま、動かずにいた。
放心しているような、店員の呼びかけにも応じないあたり、心ここにあらずと言ったところか。
――胸の棘(わだかまり)が抜けた途端に、自我が抜けた。
自身を擁護していた我が。間違ったことはしていないと言い聞かせたことが。
「……、っ、う」
どうして、今更になって気づく?


