家計のやりくりをする上で、家計簿に養育費の欄を書く妻に何度申し訳ないと思ったか。スイミングスクールに行きたいと言う娘に、お金が足りないからと言うことがいかに悔しいことか。
「……、渉、それでな」
何が恥か。
家族のために下げない頭など不要であろう。
“家に帰れば待ってくれている家族の父親として”、恥など飲み下してやる――と、貞夫が頭を下げる前に渉が口を開いた。
「決めました」
まるで今日の夕食でも決めるかのような口調で。
「僕、大学には行きません」
さらりと、自身の進路が述べられた。
「え……」
「わた……っ」
呆けた貞夫と、何かを言いかけた付添人。
いきなりの発言に理解をし遅れている貞夫はともかくとして、全てを察したような付添人の言葉を遮ったのは――渉が微笑んでいたからだ。


