『あの子も私立に入学させたいし、バレエ教室やピアノ。これから塾もあるんだから、ねえ?そろそろ――』
「娘の将来のために、あまり“無駄なお金”を使っていられないん――」
妻との会話に同調するような台詞は最後まで言えなかった。
いきなり付添人の男が立ち上がった。そのまま手を出してくるのではないかと怯えた貞夫だが、相反して、付添人は机に両の手を置いたまま顔を下に向けて固まっている。
その奇行に貞夫はまた肩を強張らせたが、渉は「平気ですから」と付添人の腕を掴んで座るように引っ張っていた。
その引きに逆らわずして、付添人はソファーに腰かける。射るような目線は変わらないままで。
何なんだ、いったいと、貞夫はマナー違反なチンピラでも見るかのように付添人を見た後、渉へと目配せをする。


