店の入り口が見える奥の席に腰かけた貞夫は、手帳に挟んでいた妻子の写真を見た。
落ち着かないときの習慣だ、こうして愛する家族を見れば貞夫も心に余裕を持てるのだが。
「……」
これから会う子のことを考えると、どんな顔をしていいかが分からなくなる。
実に12年ぶりの再会となろう。なれば、「久しぶり」と言うべきなのだろうが、そこは笑顔で言うべきなのか。
ドラマなんかでは12年ぶりの再会に感涙して、人目を憚らず抱き合うシーンを多々見るが――正直、何も思うことがなかった。
決して忘れていたわけではない。“あの子のことは覚えている”、けれども顔が曖昧になっていた。
覚えているのに、思い出せない。もはや、“そんな子もいた”という程度の思い出しかないのに。
「お久しぶりです」
声をかけられた瞬間に、鼓動が止まった気がした。


