山村も小柳くらい素直であれば可愛げがあるのに。
『僕を騙してるってことは……ないですよね?』
せっかく本当のことを話したのに、思い出したらまた腹が立ってきた。
カシスオレンジをグイッと飲み込む。
甘酸っぱくフルーティーな味わいのあとに、濃度の高いアルコールが鼻を抜ける。
特にこのカシオレはリキュールが強い気がする。
……まさか。
「ねえ、弦川さん」
小柳が声を絞って私を呼ぶ。
「ん?」
私は条件反射的に耳を彼に傾けた。
彼は私の耳に手を添え、私にしか聞こえない声で告げる。
「二次会の前に、二人で抜けませんか?」
やはり思っていた通り、こいつは抜け目のない男だった。
このカシオレのリキュールが強いのが偶然だとは、もはや思えない。
「もう〜、何考えてるの?」
私が冗談っぽく返すと、小柳は邪気のなさそうな笑顔を見せた。
「やだなぁ。弦川さんの調子が悪そうだから、送ろうと思っただけっすよ」



