それから山村は、他の所員に挨拶をして回り、最終的に新田主任にピッタリついて話をしていた。
腹の虫は治まらないが、私の教えに素直に従ったことは評価しよう。
山村がいなければ、おしゃべりな堀口さんとうるさい小柳の間だって平和だ。
彼の動向を見張って気を張ったりしなくていいし、料理だって楽しめる。
「弦川さーん。あなたのために、あなたの好きなカシスオレンジを頼んでおきました。褒めてください」
堀口さんとのトークが一段落した小柳が、次に絡むターゲットを私に絞った。
別にカシスオレンジが好きなわけではないけれど、自分を可愛く見せるためによく頼んでいたのを、こいつは覚えていたらしい。
希望通り、褒めてやることにしよう。
「ありがとう。小柳くん、気が利くね」
とびきりの笑顔でそう告げると、「でへへ」とだらしなく笑って喜ぶ。
仕事でもこれくらい気が利くようになってくれることを期待したい。
「ていうか弦川さん、どこいってたんすか? なかなか帰ってこないから、探しにいこうかと思ってたんすよ」
「空きっ腹で飲み過ぎちゃって。ちょっと静かなところで休んでたの」
「もう平気っすか? 俺がカシオレ飲みますから、ソフトドリンク頼みます?」
「ううん、大丈夫。これは私に飲ませて」
小柳はお調子者だしバイト敬語も直っていないから、一見何もわかっていない子供に見える。
だけど私の見立てでは、おそらく抜け目ないタイプだ。
仕事を覚えて社会人としての自覚を持てば、化けるだろうと思っている。



