イズミ商事では、営業で外回りする者以外、女子社員は制服だ。
通勤の服装はほぼ自由。
今日は当然デート仕様の服を着込んできた。
出社してまずすることは、所内の狭い更衣室での着替えだ。
手早く済ませ、給湯室で営業所員のお茶の準備に取り掛かる。
“美人で仕事もできる気だてのいい事務員さん”の地位を守るため、この手のサービスは惜しまない。
自分の評価を程よく上げておけば、たいていの男性は優しくしてくれるし可愛がってくれる。
心地よく生きていくうえで、大事な要素だ。
笑顔で挨拶をしながらお茶を配り終えた頃に、始業定時を迎える。
我が営業所には、10時に出社するパートの堀口(ほりぐち)さんを含め、全部で12名が在籍している。
しかし今日は、堀口さんのところ以外にも空席がある。
「あれ、小柳(こやなぎ)が来てないな」
朝礼を始めようというタイミングで、古田(ふるた)所長がそれに気づく。
「また寝坊でしょうかね」
それに反応したのは新田(にった)主任だ。
彼はこの営業所、いや、会社でも一二の業績を誇るスーパー営業マンだ。
おっとりしている所長の代わりにこの営業所を仕切っていると言っても過言ではない。



