楽しいですよ、とても。

あなたに「ブス」と言われて以来、男を弄んで楽しむことを目標に生きてきたのだから。

だけど私は、男を傷つけるつもりはないし、何かを奪うつもりもない。

原口のことだって、尾行や攻撃をされなければ、傷つけるつもりなどなかった。

楽しい時間を演出してくれた彼には、心から感謝していた。

だってつる子、ブスじゃん。

そう言って私を傷付けたあなただって、とても楽しそうにしていたじゃない。

15年抱えてきた怒りが腹の中で膨らみ、横隔膜が震えた。

かつて経験がないほどの膨張に心身が追いつかず、怒りはあっという間に私のリミッターを突き破った。

「うるさい!」

私の叫び声が辺りにビリッと響く。

マズい、自分を止めなきゃ。

理性ではそう思うが、本能が突っ走る。

「私には嘘が必要なの。自分の身と心を守るために、誰かを騙すことも必要なの」

こんな女に誰がしたと思ってるの。

他でもない、あんた自身じゃない。

「守るためって……意味がわからない」

山村が応戦してくるから、私は余計にヒートアップする。

「わからなくて結構です。あなたには、私の傷なんて見えないでしょうから」

「あなたが過去に傷ついたからって、男を騙していい理由にはなりませんよ」

だったら自分が美形だからって、ブスを傷つけていい理由にもならなかったはずだ。

15年前の胸の痛みを振り返して、目頭がツンと熱くなる。

絶対にこいつの前では泣くもんか。

私はもうあの頃の自分とは違う。

つる子とは違う。