メインのローストビーフとともに私の不幸話を美味しく召し上がったあかりは、心底気の毒そうに言った。
「その山村って男、弦川って名前を聞いても顔色ひとつ変えなかったの?」
先日コンビニで名乗った時の彼を思い出す。
「うん。嫌味なくらいに爽やかな笑顔だった」
過去の私を思い出さなかったことに安堵しつつ、私の名を聞いても何も思うところがないのだと、ガッカリもした。
「営業マンとしては感じがいいみたいだけど、傷つけた女の名前すら忘れられるくらいには薄情だってことか」
「まあ、その薄情さのおかげで私は助かってるんだけど」
いや、過去に傷つけた女だと気づかずにやたらと構ってくるから鬱陶しいという一面もあるか。
「いるよねー。人を傷つけたことなんて忘れて、悪いことなんかしたこともありませんって顔でヘラヘラ笑ってるヤツ」
「あー、あいつ完全にそのタイプだわ。きっと反省も後悔もしてないんだわ」
話しているとだんだん腹が立ってきた。
自分がやったことと、それによって私がどんなに傷ついてきたかを思い知らせてやろうか。
そして私への罪悪感に押し潰されて、一生思い悩めばいい。
あの野郎。
弦川なんていう名字は生まれて初めて聞きましたと言わんばかりの顔しやがって。
ああ、ますます腹が立ってきた。



