「え?」
目の前に、山村の整った顔がある。
彼が私のためにスペースを作って、そこへ誘導してくれたらしい。
しかし後ろから背中を押され、私の体は山村の体に押し付けられて彼との距離は再びゼロに。
「ごめんなさい!」
「いえ、僕の方こそ……」
山村の手が腰に回ったままだ。
そこだけがやけに温かい。
ふわり、彼のにおいが漂ってきた。
この体勢、さっきより状況がよくない。
抱かれているような態勢は側から見れば守られているように見えるのだろうが、私にとっては捕まっているも同然である。
彼に「つる子」のヒントを与えそうで、ヒヤヒヤする。
あまりに距離が近いから、ドキドキもする。
認めたくはないけれど、彼のにおいにクラクラする。
こんなの、山村にバレたら恥ずかしい。
早く彼が降りるに着いて……!
私は彼の乗り換え駅まで、ずっとそう祈っていた。



