聞きたくない名前だ。
新田主任の名の後には、特に。
「いいえ。今日はいらっしゃってませんよ」
胸騒ぎがして自分の呼吸が浅くなっているのがわかる。
「もし来たら、捕まえといてくれない?」
それは、なぜ?
彼に何か聞いたのですか?
そうとは聞けないので、私はただ「わかりました」と笑顔で返す。
所長はカバンから煙草の箱とライターを取り、疲れた顔で喫煙スペースへと去って行った。
まだ見えていないが、おそらく山村は水面下で動いている。
私にもアクションがあるだろうことは覚悟しているが、一体いつ、どんな形で巻き込まれるか、想像もつかない。
緊張で手を握りしめてしまい、グラスで切った治りかけの傷が鈍く痛んだ。
あれ以来、山村には一度も会っていない。
営業所にも来ていないし、いつものコンビニで出くわしてもいない。
仕事のことで他の所員が彼と電話をしているのを聞くから、生きているということだけは確かだ。



