山村は私に許可も取らず、煙草に火をつけた。
「今日、新田さんにとんでもない取引条件を突きつけられた」
彼は私がいない方に煙を吐いたが、風に乗って香ばしい煙のにおいが漂ってくる。
「とんでもない条件?」
「“弦川真咲に近付くな”。端的に言えばそういう条件だった」
何それ。どういうこと?
「全っっっ然、意味わかんないんだけど」
これが事実だとしたら本当にクレイジーだけれど、あの新田主任がそんな取引条件を出すわけがない。
「俺だって耳を疑ったさ。でも、本当なんだ」
山村が嘘をついているようには思えない。
嫌な予感が確信へと変わっていく。
「具体的には、何を言ったの?」
「色目を使うな。個人的に話をするな。プライベートで関わるな。できれば目も合わせるな。守らなければうちとは取引をしないし、セクハラで訴えさせる……とか、そんな感じ」
私は思わず吹き出してしまった。
馬鹿馬鹿しいにも程がある。
そんなことを取引条件にするなんて、まるでわがままな子供だ。
小柳ならともかく、新田主任に限ってそんなことを口に出すはずがない。



