所長の手元にある名刺を見てみる。
とても感じのよかった人やよく私と堀口さんにお菓子を差し入れてくれる人、先日の飲み会で送り狼になろうとしていた人の会社の名刺だ。
彼らはもう、みんな辞めてしまう。
「できれば同じ人に長く担当してほしいんだけどね。引き継ぎ大変だし、せっかく仲よくなれたのに、お別れは寂しいよね」
所長は人と人の繋がりやご縁をとても大事にする人だ。
わざわざ毎月飲み会を開いているのは、よりお互いを知ることでよりよい仕事をするためである。
所長はかばんにさっき私が手渡した書類を詰め、立ち上がった。
「お出かけですか?」
「ああ、ちょっとね」
あまり気乗りのする外出ではなさそうだ。
行き先を伏せる時は、大体本社で上の人たちと会う時であると、私はわかっている。
「領収証のハンコ押し、まだ終わってないの忘れないでくださいね」
「戻ってからやるよ」
「絶対ですよ?」
「……はい」



