山村をミーティングルームへと案内し、冷えた麦茶を出す。
「おかわりありますから、おっしゃってください」
「お構いなく」
お決まりの台詞を棒読みにするだけなのに、微かなイントネーションの違いや表情が特別なコミュニケーションになる。
まるで新田主任とやっていたような、高度なコミュニケーションだ。
別に山村と色っぽい関係になったわけではないけれど、少し前まであんなに嫌っていたのが嘘のようだ。
いや、もしかしたら私は、最初から嫌ってなどいなかったのかもしれない。
先に取引先を演じるのをやめたのは山村の方だった。
「意外と元気そうじゃん。今日もダルそうにしてると思ったのに」
「仕事に支障をきたすような飲み方はしないから」
「一人じゃ歩けないくらい酔ってたね。あんな弦川さん初めて見た」
そのことについては猛烈に反省している。
酔い潰れて部屋まで男に送ってもらうなんて初めてのことだった。
「ご迷惑お掛けしてすみませんでした」
「それはそれで楽しかったけど?」
山村は弱みを握ったとでも言わんばかりに口角を上げている。
「ならいいけど」



