“また”というのは、いつぞやの電車でのことを言っているのだろう。
不覚にもドキッとしてしまった私は、それを悟らせないためにプイッとそっぽを向くしかなかった。
「嫌よ。暑苦しい」
「ちぇー」
手を繋ぐなんて、冗談じゃない。
私たち、デートしてるわけじゃないんだから。
私はただ美味しい酒が飲みたくて誘いに乗っただけ。
別に、相手が山村じゃなくたってよかったんだから。
「で? どこ行くの?」
「どこにしようか」
「私、電車には乗りたくない」
「俺も」
かつて淡く抱いていた恋心を思い出す。
ズタズタに切り裂かれ、その傷が私を変えた。
私は彼の罪を許しつつあるのだろうか。
あるいはもう許しているのだろうか。
私はもう、自分がつる子であると認めてやるべきなのだろうか。
「なんだか今日はいい匂いがするね」
「失礼な。私はいつもいい匂いよ」
「今度電車で嗅いでいい?」
「ダメに決まってるでしょ!」
難しいことを考えるのはやめておこう。
今日は舟木のせいで生まれたモヤモヤを晴らすため、美味い酒を飲むのだから。



