山村が歩き出し、私が落としてしまった缶を拾う。
そして再び私を見上げ、私がしたように缶を横に振った。
しかし彼の指から缶が滑り落ちることはない。
「まだ明るいのに、もう飲んでんの?」
「悪い?」
「いいと思う。俺も飲もうかな」
「お好きにどうぞ」
私と山村の声がビルの壁を反射して響いている。
「ねぇ、弦川さん」
「何?」
「飲み行かない?」
「は?」
「こんな安い酒じゃなくて、もっと美味い酒。一緒に飲まない?」
山村が邪気のない笑顔で私を誘う。
先日また気まずくなったばかりなのに、そんなことなどまるで記憶にないかのようだ。
今日の私は、やっぱりちょっと調子がおかしいのかもしれない。
私の口は、勝手にこう動いていた。
「10分待ってて」



