酒はほどよくほろ酔いくらいがちょうどいい。

飲まれてしまっては美女失格だ。

「飲みなよ」と勧めてくる男らに「もう飲めませーん」と首を横に振るだけで喜ばれる特権を、今日もしたたかに行使する。

「大丈夫? 酔ってるみたいだね。俺、送っていくよ」

中には“取引先”というボーダーラインを守れず下心を露骨に見せてくる者もいるので、やはり酔うわけにはいかないのだ。

「大丈夫です。私、今日はもうお茶にしておきますから」

笑顔をキープしてそう答えるが、今日の男は諦めが悪いようだ。

「遠慮しないで。俺ら、確か同じ方向だったよね?」

酔ってないし遠慮してないし、家の方角を教えた記憶はないんですけど?

そう言いたい衝動を抑え、私は最近つけるようになった魔法の呪文を使うことにした。

「いいえ、遠慮なんて。彼氏が迎えに来てくれますし」

舟木が迎えに来るなんて嘘だ。

そもそも彼には、今日会社の飲み会があることも伝えていない。

いちいち禁止事項を突きつけられそうで面倒だと思ったからだ。

優越感をチャージする貴重な機会なのだから、自由に楽しみたい。