「うちにも弦川さんみたいな事務の子がいたらなぁ」
「そしたら直帰なんてせずに、顔を見に会社に戻るんだけどね」
取引先の男性たちは、毎月狙い通りの言葉で私に優越感を与えてくれる。
「みなさんの会社にも女性の事務員さんがいらっしゃるじゃないですかぁ」
私は得意の男ウケ抜群スマイルでそれを甘受する。
「うちの事務員さんはあまり気が利かなくてね。何かあったら弦川さんの方から連絡をもらえて助かるよ」
「もう。褒めたって何も出ないですよ?」
キープしていた男を手放し舟木ひとりに絞ったことで、私には優越感をチャージする機会がめっきり減ってしまった。
心の余裕を保つためにはどうしてもこの感情が必要だ。
私は美しい。そして優秀だ。
ゆえに求められている。
そう実感することで幸せを感じられる。
幼いうちに承認欲求が満たされていないと大人になってこじらせるそうだが、私はきっとそのタイプだ。
だけどそんな私をイタいと笑う人間はいないのだから問題ない。
……いや、一人だけいたか。
その一人である山村を見ると、彼は私のことなど視界に入れる気もないという感じで、私に背を向け新田主任との会話に没頭していた。
別に顔を見たかったわけではないけれど、今日は私のもとに来さえしないから、ちょっとモヤモヤする。