自宅マンションまではあと数十メートル。
山村と別れてからかけ直そうか迷っていると、山村が「どうぞ」という仕草をした。
相手が私の彼だと察しているようだ。
「もしもし」
『あ、真咲? まだ家に着いてないの?』
幸か不幸か、最近の通話は音質がいい。
ちょっとした音で山村と一緒にいることがバレないかヒヤヒヤする。
「うん、まだ。お使い頼まれちゃって、スーパー寄ってたんだ」
私が堂々と嘘をつく様子に、山村が眉間にしわを寄せ呆れた顔をした。
『そっか。到着の連絡がないから心配だった』
「もう少しで家だから心配しないで」
『わかった。気を付けてな』
「うん、ありがとう」
ここで山村が軽く咳をした。
その音をマイクが拾って舟木にバレるような気がして落ち着かない。
早く電話を切って山村と別れ、部屋に帰ってからかけ直したい。
『あ、それと、言い忘れてたんだけど』
私の気持ちなど知り得ない舟木は、会話を続ける。
「なに?」
『8月の連休、二人で旅行しない?』
「いいね。でもどこに?」
『それは今度、一緒に考えよう』



