しばらくお酒と会話を楽しんで、程よく酔いが回ってきた頃。
ツンデレの久本は、デレの方に寄り始める。
「あのさぁ、今日は金曜日だよね」
「そうですね」
「明日休みでしょ? 誕生日だし、今夜はもっと飲もうよ」
彼がこうなると帰りどきだ。
彼の言った「もっと飲もう」は「一緒に夜を過ごそう」の意味である。
彼と夜を過ごす気はさらさらない。
私にはまだ約束があるのだ。
「ごめんなさい。実は今日の残業、まだ全部終わってなくて」
あなたとの今日の約束を守るためにそうせざるを得なかったと、勝手に勘違いしてくれるような言葉をチョイスする。
「まさか、休日出勤するの?」
「はい」
前についた嘘は有効利用。
嘘の設定に真実味が増すし、恩も売れるし、一石二鳥だ。
「いつか今日のお礼に、久本さんの誕生日をお祝いさせてくださいね」
こう言って笑顔を見せれば、肩を落とした彼の表情は途端に明るくなる。
私は男を騙す悪い女だけれど、不快な思いをさせるつもりはないのだ。



