新田主任は自らのデスクに資料を置き、休憩スペースへと向かって行った。
ミーティングルームの片付けをするついでに「お疲れさま」の一言でもかけようと、数分後に彼を追う。
休憩スペースには自販機とベンチがある。
新田主任はベンチの背もたれにグタッと背中を預け、リラックスした姿勢で座っていた。
そしてどうやら電話をしているらしい。
「ははは、それは大変だったな」
彼の話し方で電話の相手がわかり、思わず足を止めた。
「あ、今日は早く帰れそうなんだ」
優しい声と口調。
「うん、うん」
会社にいる時とも、私と二人でいるときとも違う、よき夫の声だ。
つまり電話の相手は、彼の妻である。
「作ってくれんの? やった。楽しみ」
新田主任は人のもの。
出会ったときからそうだった。
そのことについて嫉妬を覚えたことはない。



