原口に連れられて入ったのは、ビルの中に入っているカジュアルなフレンチレストランだった。
先月、何気ない会話で「フレンチのフルコースを食べてみたい」と言ったのを覚えてくれていたようだ。
それが今日のための仕込みだとは、口が裂けても言えない。
私だって、フレンチのフルコースを食べたことがないわけではない。
せっかくの誕生日に食べたかったから、ちょっと言葉を工夫しただけのこと。
思い通りに事が運んだときのこの喜び。
操ってやったという優越感。
私にとってはそれこそが最高の誕生日プレゼントだ。
「すっごく美味しいです」
喜ぶときはオーバーに喜んで見せるのが、せめてものサービスだ。
「喜んでくれて嬉しいよ」
“人は見た目ではない”なんて綺麗事は馬鹿馬鹿しい。
やっぱり人間は美しい方が得をするし、幸せに暮らせるということを実感する。
整形して本当によかった。
「頂いたプレゼント、開けてもいいですか?」
「どうぞ」
ラッピングされた箱の中身は、小さなエメラルドがあしらわれたネックレスだった。
「可愛い! 嬉しいです。大事にしますね」
「そうしてくれると、俺も嬉しい」



