「それでは、皆様によろしくお伝えください」
メッセージ入りの名刺をデスクに配り終えた山村は、嫌味なほどに綺麗な笑顔を見せて去っていった。
「承知いたしております。ありがとうございました」
顔がよく見えない角度まで腰を折り、彼を送り出す。
もう二度と来てほしくない。
特約店である限り、それが無理だとわかってはいる。
だけどそう願わずにはいられない。
前任の高田さんはしょっちゅうここに来ては仕事と楽しい世間話をして帰っていく、とてもマメな営業マンだった。
だけど彼はズボラな営業マンであってほしい。
高田さんが早く病気を治して復帰してくれますように。
「それにしても、また担当変更か……」
我が社の取引先の担当者は、比較的頻繁に代わる。
高田さんは長らく担当を務めてくれていたけれど、山村はどうかすぐに交代しますように。



