「失礼します」
聞き慣れない声の来客があったのは、この日の午前11時半頃だった。
来客を迎えるのは、基本的には私の仕事だ。
作業の手を止め、立ち上がって来客用の入り口へ向かう。
「はーい。ただいま参ります」
入り口にいたのは、グレーのスーツを爽やかに着こなした若い男性だった。
意志の強そうな目に凛々しい眉が印象的な整った顔。
黒髪のショートウルフは前髪のみセットしてある。
悪くない。
だけどこの男、どこかで見たことあるような……。
思い出せないのに、心が嫌にざわつくのを感じる。
とても感じのいい人なのに、なぜだろう。
「お待たせいたしました」
「初めまして。オリエンタル・オンの山村(やまむら)と申します」
やまむら……?
彼の名を聞いた瞬間、ゾワリと全身に鳥肌が立った。
まだ明かされていないフルネームが頭に浮かぶ。
いや、でもまさか。
彼が差し出した名刺を受け取り、おそるおそる下の名前を確かめる。
山村由貴
Yamamura Yuki
書かれていたのは、字から読み方からすべて、頭を過ぎったのと同じものだった。



