あのひとが居なくなったときの周りの反応は、落胆と非難が入り混じったものだった。


迷惑な話だよな。

がっかりだよ。

逃げたんだろ。

自分勝手なヤツ。


そうだ、僕も――。


なんで? どうして? 

自分に何も告げずに居なくなったことに、落胆し、裏切られたような思いを抱いた。


けれど――。


あのひとは、自分の身辺整理をきちんとしてから姿を消していた。


迷惑? 何が? 自分勝手? 誰が?


期待するのも、失望するのも、自分自身の、それこそ身勝手な感情じゃないか。

そうか、そうやって処理するんだな。

宙ぶらりんになってしまったものを。


あのひとと一緒に居ると、何かが変わる気がしていた。

何かを変えてくれる気がしていた。

あのひとが、道を造ってくれる、連れていってくれるって、そう思っていた。


違うのに。

そんなんじゃダメなのに。

目指す先が同じだったとしても。

歩く道が同じだったとしても。

結局は、自分の足で歩いていくしかないのに。


「晃子さんの所為じゃないし、きっとあのひとは恨んでもないと思います」


それは、晃子さんへの慰めの言葉ではない。