店を出てから別れるとき、突然三鷹が言った。


「忘れちゃいけないこともある。けど、おまえは、いつまでそこにいるんだ?」


「え?」


「大事なものは、そこから引っこ抜いちまえばいいんだよ。背負ってけばいい。潰れない程度にな」


「また、そうやって……、意味が解らない」


僕は笑ってみせる。


「俺らしいだろ? じゃあな」


三鷹はニヤリと笑って、僕に背を向け歩き出した。


僕は、その背中が人ごみに紛れて見えなくなるまで見送った。


夜の冷たい風が首筋から流れ込み、アルコールで火照った身体は冷まされて、僕はいつものように、見えないローサを抱きしめた。