家の前に着いて、要路は笑って手を振る。
「じゃあね」
私も家のドアに立って手を振る。
要路とは門で仕切られてる。
段差があるからか、私の方が視線が高い。
「あったかくして寝るんだよ。
今日は冷え込むみたいだから。」
ふわり、
花でも飛ばすみたいに笑った。
要路は踵を返して、私から遠くなる。
なんだか、その背中に胸が痒くなった。
何かが、ひっかかる。
まだ、何かあるよ。私。
何か、しなければならないこと・・・!
「待って!」
私は動く口に任せて言葉を放った。
要路はピタリ、足を止めた。
そして振り向く。
大して時間はかからない動作だったはずなのに、
私にはすごく長く感じた。
私は要路の目を見た。
生唾を飲み込む。
言わなきゃ、いけないこと。
言わないとダメなこと。
言い忘れてること・・・。
「嬉しかったよ・・・!
要路の気持ちが聞けて・・・。
けど、本当に・・・、ごめんなさい」
私は唇を噛んで頭をユルユルと下げた。
頭では追いつかなくて、飛び出した言葉だけど。
まさに私が伝えたかったコトだと思う。
「・・・頭、下げないで。」
遠くから儚い声が聞こえた。
夜の冷たい空気に溶けるように、消えそう。
私はその声を聞いてゆっくり頭を上げた。
頭を上げて、目に入るのは要路の温かな表情。
大丈夫だよ、
そんな風に言ってる気がする。
「・・・ごめんなんて、やめよう。」
要路はそう言いながら戻ってきた。
「俺はさ、
美里のことを好きになったのは、
何か、何て言うか・・・
定められたことかなって思うんだ。
たくさんの人の中で、美里を好きになる。
なんか、奇跡みたいだなって思って・・・。
って、あれ、
俺何言ってんだ?
わ、すごいクサいこと言ったんじゃない?
・・・ほんと、なんかごめん。
キモくて。」
要路はフツフツと苦笑いをした。
・・・要路、そんなことない。
私も、旬のことを好きになったのは何か、ある気がする。
形にはない、何か。
「・・・」
要路は打って変わって不敵な笑みを浮かべた。
「もしも美里が旬絡みで辛そうにしてたら、
容赦なくさらうから。」
フッ、要路は口角を上げる。
うん、私は何気なく頷く。
「・・・ま、俺も略奪愛とかしたくないから・・・。
辛い思いとかなしだから。」
要路はピクリと両眉を上げて言った。
うん、また私は頷くしかなくて。
「じゃあ、今度こそバイバイ」
要路は大きく手を振って見せた。
私も、背中を見て姿が見えなくなるまで手を振った。


