男は牙呪丸。
 早暁狐姫に頼まれた、小太の行方を調べるために、重い腰を上げたのだが、小太のいたという店に来てみれば、甘味好きの牙呪丸にとっては面白くもない、青菜の店である。

 内心すっかりやる気をなくした牙呪丸だが、事は呶々女に関することである。
 呶々女のため、と己に言い聞かせ、顔を上げた牙呪丸の目が、そこらの女子と同じように彼を見ていた店の娘を捉えた。
 途端に娘は、顔を真っ赤にして息を呑んだ。

「そそそ、それはついさっき採れたばっかの瓜だよっ! まだちょいと熟れてないけど、冷やして食べると美味いよっ!!」

 必要以上に声を張り上げる娘にも、牙呪丸は動じない。
 無表情のまま、つい、と手に持った瓜を突き出した。

「甘いか?」

「あああああ甘いよっ! 熟れてからだと、もう物凄い甘さだよっ!!」

 無表情でも牙呪丸に真っ直ぐ視線を向けられ、娘は焦りながら応えた。
 『物凄い甘さ』に、牙呪丸が反応する。