始末屋 妖幻堂

 床を拭き終えると水を捨て、狐姫の周りを片付ける。
 その様子に、狐姫はぷっと吹き出した。

「ちょいと。あちきは花街の太夫じゃないよ。そんな身の回りを掃除してくれなくたっていいさ」

 あ、と小菊は顔を上げた。
 自然と、花街の遊女の世話をするように、狐姫の周りを掃除していた。
 確かにここは小間物屋であって、目の前の狐姫も、小太らは太夫と呼ぶが、実際は花街の遊女などではない。

 だが。
 小菊は手を止めて、改めて狐姫を見た。

 悠然と脇息にもたれて座っている狐姫は、むしろ実際の太夫よりも太夫らしい。
 格好だって、それなりだ。
 太夫と呼ばれるのが自然なほど、本物の太夫と変わらぬ格好をしているのだ。
 そのような者が、こんな小さな小間物屋にいるほうがおかしいのだが。

「姐さん、そんな格好で接客するんですか?」

 不思議に思い、小菊が聞く。
 店には二人しかいない。
 お客が来たら、どちらかが接客することになるが、小菊はまだ右も左もわからない。

 狐姫に頼るしかないのだが、明らかに狐姫の格好は場違いである。
 お客だって、びびるだろう。