確かに、あの言葉は天冥にとって、かさぶたを剥がした挙句に、そこに塩を塗るも同然の物かもしれない。


 自分は、死んでしまったとはいえ妻もいた。


 それは、自分が『それができる立場』にいた、普通の人間だったからだ。


 普通に学び、普通に育ち、普通に出仕し、普通に官位を得て都の人間として生きてきた。


 しかし、天冥はどうだろう。


 農民として普通に生きてきただけ、それなのに突然家族に会えなくなって。


 身を守るために人を殺した事が仇になり、幽閉されて、逃げ出したは逃げ出したで、危うく殺されかけ――そんな境遇で「人殺し」となってしまった天冥。

  
 そんな血まみれの、汚い手で、莢に触れたくなどない。

 莢には、他の人と共に生きていってほしい。


 そんな天冥の僅かな思いを蹂躙するような台詞を、自分は言ってしまった。


 謝ろう。


「てん・・・」


 言いかけ、明道はぎょとして空を見上げた。