時は戦国─────




今川義元が亡くなり、人質だった松平元康(もとやす)は自立した。




その後彼は勢力を着々と上げ、三河国を手中に収めて浜松城を本拠地とした。







今の名を徳川家康…────










その彼を支えるは時には武将として、時には忍として動く、言わば裏表の顔をもつ男──





「服部半蔵よぅ…」






「何ですか、男前美男子さん」






「………嫌味か、しょうもねぇな」





縁側で呑気にひなたぼっこをしている半蔵にある男はため息をもらす。





「殿がお呼びだぜ」





「ほぅ」






男の声に半蔵はゆっくりと飛び上がり、あたふたとした様子をわざと出しながら周囲を気にし始めた。



男はまた本日二度目のため息をつく。






「何だよお前、また何かやらかしちまったのか?」






「やらかしたも何も…─────そうですね、源九郎。口を大きく開けてみて下さい」







「あぁ?─────んぐっ!」






理解できずに首をかしげて口をかすかに開いているところを半蔵は確かに見逃さなかった。




迷わず手裏剣を投げると同様に何かを三粒源九郎という男に投げ込んだ。





「甘ぇな…………って、まさかこれっ?!」





粒々とした舌触りで、とにかく甘い。


これはかつて、あの男より頂戴した菓子に近かった。